読書記録:火刑法廷 The Burning Court【新訳版】/ディクスン・カー

書名:火刑法廷 The Burning Court 【新訳版】
著者:ジョン・ディクスン・カー
訳者:加賀山卓朗
読了日:2014/4/30
発売年月日:2011/8/20 初版
東西ミステリーベスト100 海外編10位

【あらすじ】

広大な敷地を所有するデスパード家の当主が急死。その夜、当主の寝室で目撃されたのは古風な衣装をまとった婦人の姿だった。その婦人は壁を通り抜けて消えてしまう……叔父の死に毒殺の疑いを持ったマークは、友人の手を借りて埋葬された遺体の発掘を試みる。だが、密閉された地下の霊廟から遺体は跡形もなく消え失せていたのだ! 消える人影、死体消失、毒殺魔の伝説。不気味な雰囲気を孕んで展開するミステリの一級品。



【感想】

再読。カーの作品は全部読んではいないが、読んだ中ではダントツで好きな作品。新訳ということで再読してみた。以前読んだ時も夢中で読んだが、今回は読みやすくてハードルがだいぶ下がった。古い文庫を読むのは体力がいると思う。

本作に多大な影を落としているのは、実在した毒殺魔のブランヴィリエ公爵夫人、の生まれ変わり?とみられるマリー・ドブレーという女性。本作の視点であるスティーヴンズの妻が同姓同名で、顔もそっくりに見えるという点。この人が毒殺したんじゃないか?毒殺魔の生まれ変わりなんじゃないか?と思わせる記述が随所にあって、スティーヴンズの感情にどんどんシンクロしていってしまう。実際には、スティーヴンズの心の揺れについてはあまり記述はないのにもかかわらず。

しかし、いずれにせよ難関なのは2つの密室。毒殺した犯人は壁を通り抜けて消えたという目撃者の証言と、遺体を発掘したら柩はもぬけの殻、しかしそんなことができる人がいないという不可能性。この謎が、最後になってきちんと解決され、犯人の行動が整然と整理されるのがとても気持ち良い。もちろん私は、このトリックとロジックを全て忘れ去っていたので、また新たにそのカタルシスを楽しめた。全く良い読者である。

ただ、これだけでは「火刑法廷」がここまで評価されることはなかっただろう。最後の最後で肝が冷えるエンディングが待っているのだ。こちらはさすがに覚えていた。が、それでも再読が楽しめる作品だった。

新訳版になって読みやすさがだいぶ増したので、海外の古典に躊躇している人にもオススメできる1冊になった。

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